ダンスパーティー会場の体育館に入っていくと、
還暦前後かそれ以上と見える紳士
淑女が、ジルバのリズムで踊っている。今日は百五十人くらい居るだろうか。
ロッカールームが満杯で、会場内壁面沿いにある荷物置場コーナーの机上も満杯。顔見知りの彼がいた。目で挨拶を交わす。名前は知らない。滅多なことでは名乗ることはない。
「今日は
女性が少ないね」
会場を見渡した彼は、バッグから靴を出して履き替えると、バッグの持ち手を床に近い壁の桟に、ハンカチを捻って結んだ。そして、バッグの表側を下にして、その上に脱いだジャケットを畳んで置いた。バッグと壁の桟とを結んだハンカチは見えなくなった。
「えっ? 用心深いのねぇ」
「こうして置けば少しは安心でしょ」
「なぁるほどね。石橋を叩く方ね」
「イヤ、叩かないよ。壊れたら困るから」
「えっ、石橋も叩かないの? じゃ、目で見て判断するってことね」
「膝が悪いからさ、あまり一生懸命踊らないようにしているんだ」
彼はそう言うと、準備体操を始めた。
「上手な
人妻と踊ると疲れるんだ。膝を使って踊るから、付いていくのが大変」
運動になれば良いと踊り続けているのとは違う。二、三曲踊ると休んでいる。自分から進んで申し込むより、女性に申し込まれて、相手をしているように見受けられる。
荷物置場の机を見た。私のバッグと靴入れが、持ち手を揃えて並んでいる。
置き引きにポシェットを取られたとか、コートを着て行かれた被害もあったと聞いたことがある。踊りながら時々荷物を見ていたが、いつの間にか踊ることに夢中になっていた。