現在、組織行動論において組織と個人の関係を規定する最も一般的な概念は組織コミットメントである。組織コミットメントの概念は、これまで様々な定義がなされてきたが、現在は研究分野の成熟化に伴い、情緒的コミットメントと功利的コミットメントの2つの概念に集約される。情緒的コミットメントとは、愛着や価値観の同一化といった組織に対する感情的・情緒的な関係を示すコミットメントであり、功利的コミットメントとは、「見合った報酬が得られる」などの組織との物質的、合理的な関係を示すコミットメントである。
(組織コミットメントに関する研究は日本でも行われた。特に、日本的経営の強みは組織と個人の関係の深さにあると考えられていたため、欧米での研究結果も積極的に日本で検討された。しかし、組織コミットメントだけでは日本的経営における組織と個人の関係を十分に認識できず、日本人の忠誠心の高さを表現するためには、「社会的規範を考慮したうえでの組織との関係を示す『規範的コミットメント』を考慮する」など、概念に何らかの拡張が必要である。)
近年、企業・市場の国際化が進み、日本では十分な能力・資質を兼ね備えた経営者の不足が認識されるようになっている。特に、事業転換や組織変革など長期的な観点から見た経営戦略とその重責を担う人材を必要とする企業が増えてきた。しかし、既存の組織コミットメントの概念では個人が組織のために行動することは認められるものの、その行動は場当たり的なものであって、中長期的な視野で捉えた上での行動は促すことが出来ない。また、組織コミットメントはその理論が発生した過程から、ある組織に所属し続けるという行動に結びつく心理状態を表現する概念に念頭が置かれている。その結果、組織への愛着は高まり、離職率は低下するが、コア人材が育成されず、組織変革の問題にいたってはそれを阻止しようとするマイナス要因にすらなり得る。
そこで、組織側は個人が持つ「組織を背負う意識」について認識する必要がある。「組織を背負う意識」とは、組織の将来を見据え、組織に忠実に従うのではなく、組織に対して積極的に行動する意識である。
組織を背負う意識と組織コミットメントは異なる次元に存在し、組織コミットメントが高まれば組織を背負う意識も高まるというわけではない。そのため、組織はコミットメントの強い人材の育成さえすればいいというのではなく、組織を背負う意識を持った人材も育成していかなければならない。
しかし、組織を背負う意識と組織コミットメントは互いに矛盾する存在でもない。つまり、組織を背負う意識を持ちながらも強い組織コミットメントを持った人材を育成することが十分に可能なのである。そして、このような人材を育成するために、組織は個人に対して自律的なキャリアを促しながらも、組織内でのキャリアの見通しあるいは、組織の中でその人が成長できる余地を示す必要がある。
参考文献:国民経済雑誌第196巻第3号